
村上木彫堆朱という名前は知らなくても、彫刻が施された赤い漆塗りの皿やお盆を見たことがある方は多いかもしれません。新潟県北部の城下町・村上市を代表する工芸として受け継がれてきた漆器で、村上では古くから身近な存在です。どのような特徴を持ち、どんな技法で作られ、どのように使われてきたのかを、初めての方にもわかりやすく整理します。
目次
●村上木彫堆朱とは
●村上木彫堆朱の歴史と公的指定
●村上木彫堆朱の制作工程
●村上木彫堆朱の主な種類
●村上木彫堆朱の使い方とお手入れ
●村上木彫堆朱を見られる場所
●よくある質問
●まとめ
●参考リンク
村上木彫堆朱とは
村上木彫堆朱(むらかみきぼりついしゅ)は、新潟県村上市で受け継がれてきた伝統的工芸品です。
木地に先に彫刻を施し、その彫りを生かすように天然漆を何度も塗り重ねて仕上げることに特徴があります。
厚く塗り重ねた漆の層そのものを彫る中国の堆朱とは構造が異なり、木彫りと漆塗りを組み合わせる点に村上独自の特色があります。
完成直後は落ち着いた艶消しの表情ですが、使い込むほど自然な艶と深みが増していきます。
丈夫で、鑑賞だけでなく日常使いにも向くことも大きな魅力です。

村上木彫堆朱の歴史と公的指定
村上は古くから天然漆の産地として知られ、村上木彫堆朱の技は、京都から伝わった漆工の技法を背景に、江戸時代に村上藩の保護や奨励を受けながら発展してきたと伝えられています。17世紀後半には漆奉行が置かれ、18世紀には現在の堆朱・堆黒(ついこく)が生産されるようになり、19世紀には江戸で学んだ技も持ち帰られて、さらに発展していきました。
村上木彫堆朱は昭和30年(1955年)2月、新潟県の「無形文化財」に指定され、同年3月には文化庁長官により、国の「記録作成等の措置を講ずべき無形文化財」に選択されました。
昭和51年(1976年)2月には、通商産業大臣(現:経済産業大臣)により、国の伝統的工芸品の指定を受けています。伝統証紙が付いた品は、産地組合などの検査に合格した伝統的工芸品です。
関連記事:要注意!「伝統工芸品」と「伝統的工芸品」は同じではありません
村上木彫堆朱の制作工程
村上木彫堆朱は、木地師・彫師・塗師の分業によって作られます。木地に彫刻を施し、その彫りを生かしたまま漆を重ねていくことが、この工芸の核心です。計19の工程がありますが、ここでは木地づくり、彫刻、下地づくり、塗り、研ぎ、仕上の6工程に分類し紹介します。
木地をつくる
まず、朴(ほお)・栃(とち)・桂(かつら)などの天然木を十分に乾燥させ、花びんや盆、すずり箱などの土台となる木地を作ります。最初の形づくりが、その後の彫りや塗りの美しさを左右します。
下絵を描き、彫刻する
木地ができると、表面に花鳥、山水、牡丹唐草などの下絵を描き、裏白(うらじろ)と呼ばれる彫刻刀で木地を彫り進めていきます。平面的な彫りと立体感のある彫りを使い分けながら、村上木彫堆朱ならではの繊細な表情をつくります。
刀痕を整え、下地をつくる
彫り終えた木地は、そのまま塗りに入るのではなく、まず刀痕の粗さを整えます。古くは木賊(とくさ)を使い、現在はサンドペーパーなども用いて彫刻に丸みと柔らかさを出し、その後、生漆をしみ込ませて木地を堅牢にし、さらに砥の粉などを使った下地を重ねて土台を整えます。下地づくりは、丈夫な漆器に仕上げるための重要な工程です。
中塗りと研ぎを重ねる
下地が整うと、中塗りに入ります。ここでは彫刻の溝を埋めないように、タンポや指頭(しとう)で漆をたたき込み、刷毛で整えながら塗り上げます。厚すぎると彫りが埋まり、薄すぎると仕上げの研ぎで木地の角が出てしまうため、塗りの加減が非常に重要です。塗った後は砥石や水ヤスリで研ぎ、塗面を整えます。
上塗りで色を決める
上塗りでは、堆朱なら朱漆、堆黒なら黒漆というように、仕上げの色漆を用います。この段階でも、彫模様を埋めないように注意しながら、タンポや指頭、刷毛を使って丁寧に塗り上げます。ここで作品全体の色味と塗肌の印象が決まります。
艶消し・毛彫り・仕上げ
上塗りの後は、木炭や砥の粉で水研ぎして艶を抑え、村上木彫堆朱らしい落ち着いた表情に整えます。その後、葉脈や羽毛などの細かな表現を加える毛彫りを施し、最後に全体を仕上げて完成します。多くの工程を積み重ねることで、彫りの立体感と漆の深みが両立した村上木彫堆朱が生まれます。
村上木彫堆朱の主な種類
村上木彫堆朱には、代表的な種類として堆朱、堆黒、朱溜塗(しゅだめぬり)、色漆塗(いろうるしぬり)、金磨塗(きんまぬり)、三彩彫(さんさいぼり)があります。
堆朱は朱で塗り上げた最も代表的な技法で、使うほどに自然な艶が増していきます。
堆黒は黒漆を用いた落ち着いた表情が特徴です。
朱溜塗は堆朱の上にさらに溜漆を重ね、時間とともに飴色へ変化する風合いを楽しむ技法です。
色漆塗は数色の色漆による華やかな表現。
金磨塗は色漆と金箔を組み合わせた上品な輝き。
三彩彫は色漆を重ねた上に黒を塗ってから彫り出す繊細な表現が持ち味です。

村上木彫堆朱の使い方とお手入れ
村上木彫堆朱は鑑賞用にとどまらず、普段使いの中で魅力を味わえる工芸です。花器や盆、菓子器、茶道具、食器のほか、文具やアクセサリーなど、暮らしに取り入れやすい品も見られます。使い続けるうちに艶や風合いが少しずつ変わっていくことも、この工芸ならではの楽しみです。
長く楽しむためには、やさしく扱うことが基本です。彫刻面に入った塵や埃は柔らかい刷毛などで払い、食器類は中性洗剤を使ってお湯洗いします。油のしみや指紋が気になるときは、しっかり絞った綿布で拭くと安心です。直射日光は塗面を傷めるおそれがあり、電子レンジや食器洗浄機の使用も避けた方がよいとされています。
村上木彫堆朱を見られる場所
村上市の「村上木彫堆朱会館」では、花瓶、盆、菓子器、茶道具、食器、文具、アクセサリーなど、組合員が制作した多彩な作品を見ることができます。



また、村上木彫堆朱に関する資料や道具類も展示されています。実物の彫りや質感を確かめたい方にとって代表的な見学先の一つです。写真だけでは伝わりにくい彫りの深さや漆の表情を知る入口としても適しています。
そのほか、事前申し込みで箸や急須台の彫刻体験も受け付けています。
写真は急須台の彫刻体験。急須台の木地は、丸く切った朴(ほお)の木。図案は、新潟の県木でもある雪椿です。
最初に職人さんから、雪椿の花芯、花びら、葉の各部位を彫る順番や、裏白(ウラジロ)という特殊な彫刻刀の使い方など説明があります。その後、実際に自分で図案を彫ることができます。
土日祝日の営業日には職人による解説が聞けることもあります。

村上木彫堆朱会館の住所:新潟県村上市松原町3丁目1番17号
よくある質問
-
村上木彫堆朱と中国の堆朱は同じですか?
-
同じではありません。中国の堆朱は厚く塗り重ねた漆の層を彫るのに対し、村上木彫堆朱は木地に先に彫刻を施してから漆を塗る点が大きく異なります。
-
村上堆朱という言い方を聞いたことがあるのですが?
-
「村上木彫堆朱」は、国の伝統的工芸品として用いられている名称です。
一方、「村上堆朱」という言い方も古くから使われており、現在でも『村上堆朱事業協同組合』のような団体名や、会館案内の表現、事業者の説明などに見られます。
-
村上木彫堆朱の魅力は何ですか?
-
繊細な木彫り、天然漆の落ち着いた質感、使うほどに増していく艶、そして日常使いにも向く丈夫さです。
-
村上木彫堆朱はアクセサリーや小物にも使われていますか?
-
はい。村上木彫堆朱会館には文具やアクセサリーを含む幅広い品が展示・紹介されており、現代の暮らしに合わせた形でも親しまれています。
まとめ
村上木彫堆朱は、新潟県村上市で受け継がれてきた、木彫りと天然漆の技が生きる伝統的工芸品です。木地に彫刻を施し、その上から漆を重ね、艶消しで仕上げることで、落ち着いた表情と、使うほどに増す艶をあわせ持つ漆器になります。歴史や種類、工程、お手入れを知ってから実物を見ると、村上木彫堆朱の魅力がより深く伝わることと思います。
参考リンク
2025-09-16:初版公開
2026-03-07:構成変更
この記事が参考になった方へ

この記事を書いた、み喜森(Mikimori)店主です。
新潟県村上市の伝統的工芸品「村上木彫堆朱」をはじめ、天然漆・天然木の工芸品をセレクトしてご紹介しています。
よろしければ、BASEショップものぞいていただけると励みになります。
