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【村上木彫堆朱】堆朱とは|意味・歴史・種類の基本を丁寧に解説


み喜森|村上木彫堆朱の飾り皿

堆朱(ついしゅ)とは、朱色の漆や彫りを特徴とする漆工芸の一つです。ただし、ひと口に堆朱といっても、中国の彫漆としての堆朱、日本国内で発展した堆朱、木地に彫刻を施して漆を塗り重ねる村上木彫堆朱では、技法や成り立ちに違いがあります。

このページでは、堆朱の意味、歴史、種類の基本を整理したうえで、新潟県村上市で受け継がれてきた伝統的工芸品「村上木彫堆朱」の特徴、作り方、使い方やお手入れについて、初めての方にも分かりやすく紹介します。

目次

 ●堆朱とは
 ●村上木彫堆朱とは
 ●村上木彫堆朱の歴史と公的指定
 ●村上木彫堆朱の制作工程
 ●村上木彫堆朱の主な種類
 ●村上木彫堆朱の使い方とお手入れ
 ●村上木彫堆朱を見られる場所
 ●よくある質問
 ●まとめ
 ●参考リンク

堆朱とは

堆朱(ついしゅ)とは、漆工芸における技法や作品を指す言葉の一つです。

もともとは、朱色の漆を何層にも塗り重ねて厚みを作り、その漆の層に文様を彫り出す彫漆(ちょうしつ)の一種として知られています。「堆」は積み重ねること、「朱」は赤い色を表します。つまり堆朱とは、朱漆を幾重にも重ね、その重なりを生かして文様を表す工芸といえます。

堆朱の発祥と歴史

堆朱は、中国の漆工芸の中で発展した彫漆技法の一つです。

中国の漆工芸は非常に古い歴史を持ち、器物を保護するための塗り物としてだけでなく、装飾性の高い工芸としても発展してきました。漆を塗る、描く、貝をはめ込む、金を用いる、そして漆そのものを彫るなど、さまざまな技法が生まれています。

その中で、漆を厚く塗り重ね、固まった漆の層を彫って文様を表す技法が彫漆です。朱色の漆を重ねて彫るものを堆朱、黒漆を重ねて彫るものを堆黒(ついこく)、黄色の漆を用いるものを堆黄(ついおう)などと呼びます。

堆朱では、何度も塗り重ねた朱漆の層に、花鳥、龍、鳳凰、人物、山水などの文様を彫り出します。漆を重ねる長い工程と、硬くなった漆層を彫る高度な技術を必要とするため、鑑賞性の高い美術工芸品として発展してきました。

中国では宋・元の時代に彫漆が盛んになり、元時代には重厚な漆層に力強い文様を彫る作品が作られました。日本には、こうした中国の彫漆が中世に伝わり、堆朱や堆黒として珍重されました。

特に鎌倉時代には、禅宗文化とともに中国の彫漆がもたらされ、香盆や香合など、寺院で用いられる道具として大切にされました。その後、日本でも彫漆や堆朱の技法が受け入れられ、各地の木工、漆塗り、彫刻技術と結びつきながら、独自の漆工芸へ展開していきます。

世界の中で見た堆朱

世界の工芸史の中で見ると、堆朱は中国漆器を代表する高度な装飾技法の一つとして位置づけられます。

漆の文化は、中国、日本、朝鮮半島など、東アジアを中心に育まれてきました。漆は器物を守るための素材であると同時に、光沢、色、耐久性、装飾性を兼ね備えた工芸素材でもあります。

その中でも堆朱は、塗り重ねた漆そのものを彫る点に特徴があります。木や金属の表面に絵を描くのではなく、漆を何層にも重ねて厚みを作り、その層を彫って文様を表すため、材料、時間、技術のすべてを要する工芸です。

欧米の美術館や研究では、中国の堆朱は “Chinese carved lacquer” や “cinnabar lacquer” として紹介されることがあります。直訳すれば「中国の彫漆」「辰砂色の漆器」に近い表現で、朱色の漆を主とする中国の彫漆を指す文脈で使われています。

つまり堆朱は、日本語の工芸用語であると同時に、世界の美術館では中国漆器の代表的な彫刻的技法として扱われる工芸でもあります。中国の堆朱作品は、器や盆、箱、香合などの形で伝わり、花や鳥、龍、鳳凰、人物、山水などの文様を通じて、中国美術の意匠や時代ごとの美意識を伝えています。

一方で、日本では、中国から伝わった堆朱・彫漆をそのまま受け入れるだけでなく、各地の素材や技術に合わせて変化させてきました。厚く重ねた漆層を彫る彫漆系の堆朱だけでなく、木地に先に彫刻を施し、その上から朱漆を塗り重ねる木彫系の堆朱も生まれました。

このように、世界の中で見た堆朱は、中国漆器を代表する高度な彫漆技法であり、日本ではその影響を受けながら、地域ごとに異なる形へ展開してきた工芸といえます。

日本国内で「堆朱」と呼ばれる工芸

日本にも、中国の漆工芸や彫漆の影響を受けながら、各地で独自の漆器文化が育ちました。

ここで注意したいのは、日本で「堆朱」と呼ばれる工芸のすべてが、中国の堆朱と同じように、厚く塗り重ねた漆の層そのものを彫るわけではない、という点です。

日本国内で堆朱と呼ばれるものは、理解のために大きく分けると、いくつかの系統に便宜的に整理できます。

一つ目は、漆を厚く塗り重ね、その漆層を彫って文様を表す彫漆系の堆朱です。中国の堆朱に近い考え方で、漆そのものの層を彫ることに重きがあります。

二つ目は、木地に先に文様を彫刻し、その上から朱色の漆を塗り重ねて仕上げる木彫系の堆朱です。新潟県村上市で受け継がれてきた村上木彫堆朱は、この系統にあたります。厚く重ねた漆層を彫るのではなく、木地の彫刻と漆塗りを組み合わせて仕上げる点に特徴があります。

三つ目は、産地や用途に応じて技法を変化させた堆朱です。たとえば仙台堆朱は、村上堆朱の技術を背景にしながら、型押しによる工法などを取り入れて発展した工芸として知られています。

このように、国内で「堆朱」と呼ばれる工芸には、漆層を彫るもの、木地を彫ってから漆を塗るもの、産地ごとに独自の方法へ展開したものがあります。名前は同じ堆朱でも、作り方や見た目、質感には違いがあります。

ただし、これらを外観だけで正確に見分けるのは簡単ではありません。塗り上がった漆器では、漆の層を彫っているのか、木地を彫ってから漆を塗っているのかが、表面だけでは分かりにくい場合があります。

そのため、種類や産地を知りたいときは、見た目だけで判断するのではなく、作品名、産地名、箱書き、説明書き、購入元の情報を確認することが大切です。真贋や価値の判断が必要な場合は、専門店、産地の組合、鑑定に詳しい事業者などに確認するのが安全です。

このページでは、堆朱全般の意味や歴史、国内での種類を整理したうえで、新潟県村上市で受け継がれてきた村上木彫堆朱を中心に紹介します。

村上木彫堆朱とは

村上木彫堆朱(むらかみきぼりついしゅ)は、新潟県村上市で受け継がれてきた伝統的工芸品です。

木地に先に彫刻を施し、その彫りを生かすように天然漆を何度も塗り重ねて仕上げることに特徴があります。

厚く塗り重ねた漆の層そのものを彫る中国の堆朱とは構造が異なり、木彫りと漆塗りを組み合わせる点に村上独自の特色があります。

完成直後は落ち着いた艶消しの表情ですが、使い込むほど自然な艶と深みが増していきます。

丈夫で、鑑賞だけでなく日常使いにも向くことも大きな魅力です。

村上木彫堆朱の歴史と公的指定

村上は古くから天然漆の産地として知られ、村上木彫堆朱の技は、京都から伝わった漆工の技法を背景に、江戸時代に村上藩の保護や奨励を受けながら発展してきたと伝えられています。17世紀後半には漆奉行が置かれ、18世紀には現在の堆朱・堆黒(ついこく)が生産されるようになり、19世紀には江戸で学んだ技も持ち帰られて、さらに発展していきました。

村上木彫堆朱は昭和30年(1955年)2月、新潟県の「無形文化財」に指定され、同年3月には文化庁長官により、国の「記録作成等の措置を講ずべき無形文化財」に選択されました。

昭和51年(1976年)2月には、通商産業大臣(現:経済産業大臣)により、国の伝統的工芸品の指定を受けています。伝統証紙が付いた品は、産地組合などの検査に合格した伝統的工芸品です。

関連記事:要注意!「伝統工芸品」と「伝統的工芸品」は同じではありません

村上木彫堆朱の制作工程

村上木彫堆朱は、木地師・彫師・塗師の分業によって作られます。木地に彫刻を施し、その彫りを生かしたまま漆を重ねていくことが、この工芸の核心です。計19の工程がありますが、ここでは木地づくり、彫刻、下地づくり、塗り、研ぎ、仕上の6工程に分類し紹介します。

木地をつくる

まず、朴(ほお)・栃(とち)・桂(かつら)などの天然木を十分に乾燥させ、花びんや盆、すずり箱などの土台となる木地を作ります。最初の形づくりが、その後の彫りや塗りの美しさを左右します。

下絵を描き、彫刻する

木地ができると、表面に花鳥、山水、牡丹唐草などの下絵を描き、裏白(うらじろ)と呼ばれる彫刻刀で木地を彫り進めていきます。平面的な彫りと立体感のある彫りを使い分けながら、村上木彫堆朱ならではの繊細な表情をつくります。

刀痕を整え、下地をつくる

彫り終えた木地は、そのまま塗りに入るのではなく、まず刀痕の粗さを整えます。古くは木賊(とくさ)を使い、現在はサンドペーパーなども用いて彫刻に丸みと柔らかさを出し、その後、生漆をしみ込ませて木地を堅牢にし、さらに砥の粉などを使った下地を重ねて土台を整えます。下地づくりは、丈夫な漆器に仕上げるための重要な工程です。

中塗りと研ぎを重ねる

下地が整うと、中塗りに入ります。ここでは彫刻の溝を埋めないように、タンポや指頭(しとう)で漆をたたき込み、刷毛で整えながら塗り上げます。厚すぎると彫りが埋まり、薄すぎると仕上げの研ぎで木地の角が出てしまうため、塗りの加減が非常に重要です。塗った後は砥石や水ヤスリで研ぎ、塗面を整えます。

上塗りで色を決める

上塗りでは、堆朱なら朱漆、堆黒なら黒漆というように、仕上げの色漆を用います。この段階でも、彫模様を埋めないように注意しながら、タンポや指頭、刷毛を使って丁寧に塗り上げます。ここで作品全体の色味と塗肌の印象が決まります。

艶消し・毛彫り・仕上げ

上塗りの後は、木炭や砥の粉で水研ぎして艶を抑え、村上木彫堆朱らしい落ち着いた表情に整えます。その後、葉脈や羽毛などの細かな表現を加える毛彫りを施し、最後に全体を仕上げて完成します。多くの工程を積み重ねることで、彫りの立体感と漆の深みが両立した村上木彫堆朱が生まれます。

村上木彫堆朱の主な種類

村上木彫堆朱には、代表的な種類として堆朱、堆黒、朱溜塗(しゅだめぬり)、色漆塗(いろうるしぬり)、金磨塗(きんまぬり)、三彩彫(さんさいぼり)があります。

堆朱は朱で塗り上げた最も代表的な技法で、使うほどに自然な艶が増していきます。

堆黒は黒漆を用いた落ち着いた表情が特徴です。

朱溜塗は堆朱の上にさらに溜漆を重ね、時間とともに飴色へ変化する風合いを楽しむ技法です。

色漆塗は数色の色漆による華やかな表現。

金磨塗は色漆と金箔を組み合わせた上品な輝き。

三彩彫は色漆を重ねた上に黒を塗ってから彫り出す繊細な表現が持ち味です。

村上木彫堆朱の使い方とお手入れ

村上木彫堆朱は鑑賞用にとどまらず、普段使いの中で魅力を味わえる工芸です。花器や盆、菓子器、茶道具、食器のほか、文具やアクセサリーなど、暮らしに取り入れやすい品も見られます。使い続けるうちに艶や風合いが少しずつ変わっていくことも、この工芸ならではの楽しみです。

長く楽しむためには、やさしく扱うことが基本です。彫刻面に入った塵や埃は柔らかい刷毛などで払い、食器類は中性洗剤を使ってお湯洗いします。油のしみや指紋が気になるときは、しっかり絞った綿布で拭くと安心です。直射日光は塗面を傷めるおそれがあり、電子レンジや食器洗浄機の使用も避けた方がよいとされています。

古い品や汚れが気になる品は、状態によって扱い方が変わることもあります。不安がある場合は、漆を扱う職人さんに相談する方法もあります。実際に古い花瓶や小箱をお手入れした記録は、こちらの記事で紹介しています。

関連記事:村上木彫堆朱のお手入れ記録|古い花瓶・小箱のビフォーアフター

村上木彫堆朱を見られる場所

村上市の「村上木彫堆朱会館」では、花瓶、盆、菓子器、茶道具、食器、文具、アクセサリーなど、組合員が制作した多彩な作品を見ることができます。

また、村上木彫堆朱に関する資料や道具類も展示されています。実物の彫りや質感を確かめたい方にとって代表的な見学先の一つです。写真だけでは伝わりにくい彫りの深さや漆の表情を知る入口としても適しています。

そのほか、事前申し込みで箸や急須台の彫刻体験も受け付けています。

写真は急須台の彫刻体験。急須台の木地は、丸く切った朴(ほお)の木。図案は、新潟の県木でもある雪椿です。

最初に職人さんから、雪椿の花芯、花びら、葉の各部位を彫る順番や、裏白(ウラジロ)という特殊な彫刻刀の使い方など説明があります。その後、実際に自分で図案を彫ることができます。

土日祝日の営業日には職人による解説が聞けることもあります。

村上木彫堆朱会館の住所:新潟県村上市松原町3丁目1番17号

よくある質問

堆朱とは何ですか?

堆朱(ついしゅ)とは、漆工芸における技法や作品を指す言葉の一つです。もともとは、朱色の漆を厚く塗り重ね、その漆の層を彫って文様を表す彫漆の一種として知られています。日本では、木地に彫刻を施してから朱漆を塗り重ねる工芸も堆朱と呼ばれてきました。

堆朱の読み方は?

堆朱は「ついしゅ」と読みます。「堆」は積み重ねること、「朱」は赤い色を表します。朱色の漆を重ねることに由来する言葉です。

日本国内の堆朱にはどのような種類がありますか?

大きく見ると、漆を厚く塗り重ねてその層を彫る彫漆系の堆朱と、木地に彫刻を施してから漆を塗り重ねる木彫系の堆朱があります。村上木彫堆朱は木彫系の堆朱にあたります。また、仙台堆朱のように、産地独自の工法を取り入れて発展した例もあります。

村上木彫堆朱と中国の堆朱は同じですか?

同じではありません。中国の堆朱は、厚く塗り重ねた漆の層そのものを彫って文様を表す技法として知られています。一方、村上木彫堆朱は、木地に先に彫刻を施し、その上から漆を塗り重ねて仕上げる点に特徴があります。

村上堆朱という言い方を聞いたことがあるのですが?

「村上木彫堆朱」は、国の伝統的工芸品として用いられている名称です。
一方、「村上堆朱」という言い方も古くから使われており、現在でも『村上堆朱事業協同組合』のような団体名や、会館案内の表現、事業者の説明などに見られます。

村上木彫堆朱の魅力は何ですか?

繊細な木彫り、天然漆の落ち着いた質感、使うほどに増していく艶、そして日常使いにも向く丈夫さです。

村上木彫堆朱はアクセサリーや小物にも使われていますか?

はい。村上木彫堆朱会館には文具やアクセサリーを含む幅広い品が展示・紹介されており、現代の暮らしに合わせた形でも親しまれています。

関連記事:第8回 漆うる和し(漆の笛「レスぴー」の紹介)

まとめ

堆朱は、もともと朱色の漆を塗り重ね、その漆の層を彫って文様を表す彫漆の一種として発展してきた漆工芸です。中国のように漆そのものの層を彫る技法がある一方で、日本ではそれに加え、木地に彫刻を施してから朱漆を塗り重ねる工芸も堆朱と呼ばれてきました。

村上木彫堆朱は、新潟県村上市で受け継がれてきた、木彫りと天然漆の技が生きる伝統的工芸品です。木地に彫刻を施し、その上から漆を重ね、艶消しで仕上げることで、落ち着いた表情と、使うほどに増す艶をあわせ持つ漆器になります。歴史や種類、工程、お手入れを知ってから実物を見ると、村上木彫堆朱の魅力がより深く伝わることと思います。

村上堆朱事業協同組合
村上市公式サイト

初版公開:2025-09-16
構成変更:2026-03-07
「堆朱とは」を追加:2026-06-29

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この記事を書いた、み喜森(Mikimori)店主です。
新潟県村上市の伝統的工芸品「村上木彫堆朱」をはじめ、天然漆・天然木の工芸品をセレクトしてご紹介しています。
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